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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)86号 判決

東京都新宿区西新宿2丁目4番1号

原告

セイコーエプソン株式会社

代表者代表取締役

安川英昭

訴訟代理人弁護士

松尾栄蔵

同弁理士

稲葉良幸

大賀眞司

同弁護士

君嶋祐子

寺澤幸裕

同弁理士

大木健一

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

荒井寿光

指定代理人

吉野公夫

石井勝徳

及川泰嘉

吉野日出夫

主文

1  特許庁が平成4年審判第7694号事件について平成8年2月16日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文同旨

2  被告

(1)原告の請求を棄却する。

(2)訴訟費用は原告の負担とする。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「投写式表示装置」とする発明(以下、「本願発明」という。)につき、昭和58年6月21日特許出願(昭和59年特許願第111194号)をしたところ、拒絶査定を受けたので、平成4年5月8日審判を請求し、平成4年審判第7694号として審理された結果、出願公告(平成7年特許出願公告第23936号)されたが、特許異議の申立てがあり、平成8年2月16日、特許異議の申立ては理由があるとの決定とともに、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は平成8年5月1日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

白色光を受け赤色光、緑色光及び青色光をそれぞれ生成する色光生成手段と、前記赤色光を受けそれに対応する画像を生成する第1のライトバルブ手段と、前記緑色光を受けそれに対応する画像を生成する第2のライトバルブ手段と、前記青色光を受けそれに対応する画像を生成する第3のライトバルブ手段と、前記第1のライトバルブ手段、前記第2のライトバルブ手段及び前記第3のライトバルブ手段によりそれぞれ生成された画像を合成する合成手段と、該合成手段により合成された画像を投写する投写光学手段とを有し、

前記第1のライトバルブ手段、前記第2のライトバルブ手段及び前記第3のライトバルブ手段は、それぞれが、前記色光生成手段からの色光を偏光させる入射側偏光板と、前記偏光された色光の偏光方向を制御する透過型液晶パネルと、前記偏光方向が制御された色光の内特定の偏光方向の色光を透過させる出射側偏光板とを有し、

前記透過型液晶パネルは、第1の基板と、第2の基板と、前記第1の基板と前記第2の基板の間に挟持された液晶部材と、前記第1の基板上に形成された複数の画素電極と、前記第1の基板上に形成された前記複数の画素電極のそれぞれに接続された能動スイッチング素子と、前記第2の基板上に形成された共通電極とを有し、

前記各透過型液晶パネルを、前記各色光が前記第2の基板側から入射するように配置したことを特徴とする投写式表示装置(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)本願発明の要旨は前項のとおりである。

(2)引用例

これに対して、米国特許第4368963号明細書(1983年1月18日特許。以下「引用例1」という。別紙図面2参照)には、次のような発明が記載きれている。

光源56、57、58からの光を受け赤色光、緑色光及び青色光をそれぞれ生成するカラーフィルタ53、54、55と、該赤色光を受けそれに対応する画像を生成する第1の透過型液晶パネル50と、該緑色光を受けそれに対応する画像を生成する第2の透過型液晶パネル51と、該青色光を受けそれに対応する画像を生成する第3の透過型液晶パネル52と、該第1の透過型液晶パネル50、第2の透過型液晶パネル51及び第3の透過型液晶パネル52により生成された画像をそれぞれスクリーン65の同じ位置に投射する複数のレンズ62、63、64とを有ずる投写システム。

また、昭和57年特許出願公開第20777号公報(昭和57年12月16日出願公開。以下、「引用例2」という。別紙図面3参照)には、例えば、「ガラス基板1上にカラーフィルタを形成する。・・・この上部に液晶駆動電極となる透明電極5を形成する。反対側の対向電極はガラス基板2上に、アクティブマトリックス用のスイッチング素子や、非線形素子の配列されている素子層3を形成し、その上部に、カラーフィルタの各ドットの対応した透明駆動電極層4を形成する。次にこの2つのガラス基板1、2を向い合わせて、周辺をシールして液晶7を封入する。この表示パネルを透過型で用いる場合はガラス基板1の下に偏光板を介して又はガラス基板2の上方に偏光板を配して下方から光を導入し、液晶としては黒色素のネガ型のゲストホスト液晶を用いる。」(2頁左上欄9行ないし右上欄5行)、「このようなカラー液晶表示体の表示方式としては、液晶のシャッタの開いている時と閉じている時の透過率の比が大きいことが要求される。通常のTN表示体の場合は表示パネルの上下に偏光板を2枚配列し、ポジ型になるように偏光面をあわせる。この場合のシャッタの透過率比は、2枚の偏光板の偏光方向が平行の時と垂直時との比になり、偏光板により決定される。実際にはこの偏光板ではこの比がせいぜい10程度であり、偏光板に工夫を要する。」(5頁左上欄10行ないし19行)との記載があり、これらの記載事項と図面の記載を総合すると、結局、引用例2には次のような発明が記載されているといえる。

第1のガラス基板2と、第2のガラス基板1と、該第1のガラス基板2と該第2のガラス基板1の間に挟持された液晶7と、該第1のガラス基板2上に形成された複数の透明駆動電極層4と、該第1のガラス基板2上に形成された該複数の透明駆動電極層4のそれぞれに接続されたアクティブマトリックス用のスイッチング素子と、該第2のガラス基板1上に形成された透明電極5とを有する透過型表示パネルにおいて、光を該第2の基板1側から入射させ、該透過型表示パネルの上下に偏光板を配列するもの。

(3)対比

本願発明と引用例1記載の発明とを対比すると、後者の「光源56、57、58からの光を受け赤色光、緑色光及び青色光をそれぞれ生成するカラーフィルタ53、54、55」、「第1の透過型液晶パネル50」、「第2の透過型液晶パネル51」、「第3の透過型液晶パネル52」、「複数のレンズ62、63、64」、「投写システム」は、前者の「白色光を受け赤色光、緑色光及び青色光をそれぞれ生成する色光生成手段」、「第1のライトバルブ手段」、「第2のライトバルブ手段」、「第3のライトバルブ手段」、「画像を投写する投写光学手段」、「投写式表示装置」にそれぞれ相当する。また、引用例1記載の発明において、第1の透過型液晶パネル50、第2の透過型液晶パネル51及び第3の透過型液晶パネル52により生成された画像をそれぞれ複数のレンズ62、63、64によりスクリーン65の同じ位置に投射している点を考慮すると、この複数のレンズ62、63、64は、本願発明の、第1のライトバルブ手段、第2のライトバルブ手段及び第3のライトバルブ手段によりそれぞれ生成された画像を合成する「合成手段」であると同時に、合成された画像を投写する「投写光学手段」に相当するので、結局、両者は、「白色光を受け赤色光、緑色光及び青色光をそれぞれ生成する色光生成手段と、前記赤色光を受けそれに対応する画像を生成する第1のライトバルブ手段と、前記緑色光を受けそれに対応する画像を生成する第2のライトバルブ手段と、前記白色光を受けそれに対応する画像を生成する第3のライトバルブ手段と、前記第1のライトバルブ手段、前記第2のライトバルブ手段及び前記第3のライトバルブ手段によりそれぞれ生成された画像を合成する合成手段と、該合成手段により合成された画像を投写する投写光学手段とを有し、前記第1のライトバルブ手段、前記第2のライトバルブ手段及び前記第3のライトバルブ手段は、それぞれが、前記色光生成手段からの色光を制御する透過型液晶パネルからなる投写式表示装置」である点で一致し、次の点で相違している。

相違点

〈1〉 本願発明では、透過型液晶パネルが、第1の基板と、第2の基板と、前記第1の基板と前記第2の基板の間に挟持された液晶部材と、前記第1の基板上に形成された複数の画素電極と、前記第1の基板上に形成された前記複数の画素電極のそれぞれに接続された能動スイッチング素子と、前記第2の基板上に形成された共通電極とを有し、この透過型液晶パネルを、光が前記第2の基板側から入射するように配置したのに対して、引用例1記載の発明では、透過型液晶パネルに関してそのような構成が記載されていない点。

〈2〉 本願発明では、第1のライトバルブ手段、第2のライトバルブ手段及び第3のライトバルブ手段のそれぞれが、入射側偏光板と、偏光された光の偏光方向を制御する透過型液晶パネルと、偏光方向が制御された光の内特定の偏光方向の光を透過させる出射側偏光板を有するのに対し、引用例1記載の発明では、そのような限定がされていない点。

(4)当審の判断

〈1〉 相違点〈1〉について検討するに、引用例2の「第1のガラス基板2」、「第2のガラス基板1」、「液晶7」、「透明駆動電極層4」、「アクティブマトリックス用のスイッチング素子」、「透明電極5」、「透過型表示パネル」は、それぞれ本願発明の「第1の基板」、「第2の基板」、「液晶部材」、「画索電極」、「能動スイッチング素子」、「共通電極」、「透過型液晶パネル」に相当するがら、透過型液晶パネルとして、第1の基板と、第2の基板と、第1の基板と第2の基板の間に挟持された液晶部材と、第1の基板上に形成された複数の画素電極と、第1の基板上に形成された該複数の画素電極のそれぞれに接続された能動スイッチング素子と、第2の基板上に形成された共通電極と、を有するものを、光が該第2の基板側から入射するように配置して使用することは引用例2に記載されている。そして、引用例1記載の投写式表示装置における「透過型液晶パネル」として、引用例2に記載されたものを採用するととは、本願発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に想到することができるものである。

〈2〉 次に相違点2について検討するに、液晶を用いたライトバルブ手段として、光の偏光方向を制御する液晶表示パネルの上下に偏光板を2枚配列したものを用いることは、例えば引用例2にも記載されているように、本出願前周知のことであり、ライトバルブ手段として、入射側偏光板と、偏光された光の偏光方向を制御する透過型液晶パネルと、偏光方向が制御された光の内特定の偏光方向の光を透過させる出射側偏光板を有するものを用いることは、当業者が容易になし得る程度のことである。

〈3〉 そして、本願発明の効果は、引用例1及び引用例2記載の各発明から予測できるものであって、格別顕著なものではない。

(5)むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1及び引用例2記載の各発明から当業者が容易に発明をすることができたもので特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決の理由の要点(1)は認める。同(2)のうち、引用例2に「透過型表示パネルにおいそ、光を該第2の基板1側から入射させ、該透過型表示パネルの上下に偏光板を配列するもの」が記載されていることは争い、その余は認める。同(3)のうち、引用例1記載の発明の「複数のレンズ62、63、64」が本願発明の「画像を投写する投写光学手段」に相当するとの認定、この「複数のレンズ62、63、64」が、本願発明の「合成手段」であると同時に「投写光学手段」に相当するとの認定、及びこれらの点を踏まえて、引用例1記載の発明と本願発明が「前記第1のライトバルブ手段、前記第2のライトバルブ手段及び前記第3のライトバルブ手段によりそれぞれ生成された画像を合成する合成手段と、該合成手段により合成された画像を投写する投写光学手段とを有」する点で一致するとした認定判断は争い、その余は認める。同(4)〈1〉のうち、「光が該第2の基板側から入射するように配置して使用することは引用例2に記載されている」との認定及び引用例1記載の発明における「透過型液晶パネル」として、引用例2に記載されたものを採用することは当業者が容易に想到できる芝の判断は争い、その余は認める。同(4)〈2〉、〈3〉、及び同(5)は争う。

審決は、本願発明の技術内容を誤認した結果、一致点の認定を誤り、また、引用例2記載の発明の技術内容を誤認し、引用例1記載の発明と引用例2記載の発明の組合せの困難を看過した結果、相違点〈1〉の判断を誤ったものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)取消事由1(合成手段及び投写光学手段について本願発明の技術内容の誤認による一致点の認定の誤り)

審決は、引用例1記載の発明の複数のレンズ62、63、64は、本願発明の、第1のライトバルブ手段、第2のライトバルブ手段及び第3のライトバルブ手段によりそれぞれ生成された画像を合成する「合成手段」であると同時に、合成された画像を投写する「投写光学手段」に相当すると認定したが、これは誤りである。

〈1〉 すなわち、本願明細書の特許請求の範囲には「(第1ないし第3の)ライトバルブ手段によりそれぞれ生成された画像を合成する合成手段と、該合成手段により合成された画像を投写する投写光学手段」と記載されている。したがって、本願発明の技術内容は、まず、合成手段により画像を合成し、その後に、合成された画像を投写光学手段により投写するものである。

この点は、本願明細書の発明の詳細な説明中に、本願発明の上記構成により、「各透過型液晶パネルで生成された画像を色合成手段により合成して投写しているので、投写光学手段からスクリーンまでの距離や、投写サイズの変更に対しても、単純に投写光学手段の操作のみで焦点を合わせることができ、操作が簡単化される。」(8欄30行ないし34行)という記載があり、これを参酌すれば、合成手段と投写光学手段との前後関係は更に明らかとなる。

被告は、本願発明の平成7年特許出願公告第23936号公報(以下「本願公告公報」という。)第1図(別紙図面1第1図)に示された光学系において、液晶パネル33、34、35とスクリーン32間には「画像」は存在しないとしており、「結像した光」を「画像」とし、結像していない光は画像ではないと主張するようである。しかし、画像とは変調された光により構成されるものであり結像とは直接関係しないから、結像していない光であっても、その光により画像は形成されているものである。

〈2〉 これに対し、引用例1記載の複数のレンズ62、63、64は、各色の画像をそれぞれ投写するだけのものであって、合成された画像を投写するものではない。

〈3〉 そして、この構成の相違により、引用例1記載の発明と異なり、本願発明の投写光学手段は最小で1つのレンズ光学系により構成することが可能であり、また、投写光学手段からスクリーンまでの距離や、投写サイズの変更に対しても、単純に投写光学手段の操作のみで焦点を合わせることができ、操作が簡単化されるという効果を奏する。

したがって、引用例1記載の発明の複数のレンズ62、63、64は、本願発明の「合成手段」及び「投写光学手段」には相当しない。

(2)取消事由2(引用例2の技術内容の誤認による相違点〈1〉の判断の誤り)

審決は、引用例2に、光が第2の基板側から入射するように配置して使用することが記載されていると認定したが、これは誤りである。そして、その結果、審決は相違点〈1〉の判断を誤ったものである。

本願発明において、光が第2の基板側から入射するように配置した構成を採用したのは、TFTに照射される光強度が下げられ、その結果、光に起因する光電流が押さえられ、表示画面のコントラストの低下を押さえるという技術的思想によるものである。

これに対し、引用例2の第1図(別紙図面3参照)において、ガラス基板1(本願発明の第2の基板)が下側に配置されていることから、本願発明の第2の基板側から光を入射する構成が記載されているように見える。しかし、引用例2の第2図の光の入射方向は、本願発明の第1の基板側であり、第9図の光の入射方向は「光を上方又は下方より照射する」(4頁右下欄1行)との記載があるとおりどちらでもよい。また、引用例2には、「第1図に示す液晶パネルは・・・上側のみに偏光板を用いる」(3頁左上欄15行ないし17行)と記載されており、パネルの光の入射側には偏光板は存在しないから、入射側偏光板により入射光の強度が低下することなくTFTに光が照射されることになり、TFTでの光電流は顕著でありコントラストの低下を押さえることができない。引用例2記載の発明があえてこのような構成を採用していることからも、引用例2には、本願発明の技術的思想は開示されておらず、前記第1図にたまたま偶発的に本願発明と同一の記載がされたにすぎない。

そして、引用例2の第1図の記載は、本願発明と構成は同一であっても、以下のとおり、本願発明の作用効果を奏しえない特段の事情がある。

〈1〉 引用例2記載の発明は、ワープロ等に用いられる直視型の表示装置であるのに対し、本願発明はスクリーンに画像を投影する投写型の表示装置である。そのため、前者と後者で、透過型液晶パネルに入射する光強度の差は、1対50ないし1対1000である。そして、光強度が大きいほど、光電流の問題は大きくなるから、引用例2記載の発明の場合と本願発明の場合では、当業者の認識は著しく相違する。したがって、当業者は、引用例2の記載から本願発明の作用効果を容易に予想することはできない。

〈2〉 引用例2記載の発明は、電圧印加時及び無印加時の液晶分子の配列の変化に基づき、液晶内に添加された染料の方位を制御してシャッターとして機能させるゲストホスト型液晶の液晶パネルのネガ型液晶(電圧が印加されていないときには光が透過しないタイプ)であるから、電圧が印加されていないときには、液晶中の色素が光を吸収して光は透過せず、TFTには光が照射されないことになる。したがって、引用例2記載の発明には、そもそも、TFTに照射される光に起因する光電流による表示画面のコントラストの低下を押さえるという、本願発明の技術的課題は存在しない。したがって、引用例2記載の発明においては、当業者には、上記課題の認識が生じない。

〈3〉 引用例2記載の発明はゲストホスト型の液晶パネルであって、光を吸収するシャッターとして機能するものであるから、本願発明の「偏光された色光の変更方向を制御する液晶パネル」ではなく、両者は全く異なる。

〈4〉 引用例2記載の発明はゲストホスト型液晶であるから、光を液晶層の色素にて吸収する。したがって、強力な光が照射される投写型表示装置にゲストホスト型液晶を用いると、液晶パネルの温度は強力な光を吸収することによって非常に高温になってしまい、正常な表示動作ができなくなるから、引用例2記載の発明の液晶パネルを投写型表示装置に用いることは困難である。

(3)取消事由3(組合せ困難による相違点〈1〉の判断誤り)

審決は、相違点〈1〉について、引用例1記載の投写式表示装置における透過型液晶パネルとして引用例2記載の発明のものを採用することを容易と判断したが、これは誤りである。

引用例1記載の発明は、投写式表示装置(プロジェクタ)であるのに対し、引用例2記載の発明は、パソコンやワープロ等に使用される直視型表示装置であって、本出願当時においては技術分野が異なっていた。すなわち、直視型表示装置では、透過型液晶パネルに入射されるのは弱い光源の白色光そのものであり、また、透過型液晶パネルは色生成手段であるカラーフィルタを内蔵するのが一般的である。とれに対して、本願の投写式表示装置では、スクリーンに画像を投影するために非常に強い光がライトバルブに入射される上、色生成手段が透過型液晶パネルの外部に設けられている。そして、引用例2の直視型表示装置の透過型液晶パネルには光源の白色光がそのまま照射されるから、これをそのまま投写式表示装置に用いた場合、非常に強力な白色の光源光が入射側偏光板に照射されてしまうので偏光板が発熱劣化し実用に耐えられないし、さらに、強い光によりTFTに起電力が生じてトランジスタがオン状態になり(光リーク)、表示画面のコントラストが著しく低下して実用にならない。ところが、引用例1には、上記強力な光源を用いたときの入射側偏光板の発熱及び光リークの問題については記載も示唆も全くない。

本願発明は、白色光から色光を生成する色生成手段により光源光の光強度を下げた色光を入射側偏光板に入射することで偏光板の発熱を低減し、入射側偏光板及び能動スイッチング素子の形成されていない第2の基板側から色光を入射することにより更に光強度を下げて光リークを低減させて、上記問題を解決した。

しかし、このような問題を認識していない引用例1記載の発明と引用例2記載の発明からは、両者を組み合わせることを容易に想到できたとはいえないのである。

第3  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1ないし3の事実は認め、同4は争う。

2  取消事由についての被告の反論

(1)取消事由1について

〈1〉 本願明細書の特許請求の範囲の「(第1ないし第3の)ライトバルブ手段によりそれぞれ生成された画像を合成する合成手段と、該合成手段により合成された画像を投写する投写光学手段」との記載からは、合成手段と投写光学手段との間に、原告の主張するような前後関係を明確に読み取ることはできない。

結像とは、画像上の一点から射出した光が、集光されて一点に集まり、その画像上の一点が再生される現象をいう。そして、本願公告公報第1図(別紙図面1参照)に示された光学系において、画像は、液晶パネル33、34、35に存在し、その3つの画像の光学的な像(光像)が重なりあった状態でスクリーン32上に再生されるが、その間の光路上には、「画像」と呼べるようなものは存在せず、各画像から射出した光があるだけである。そうすると、上記光学系において、合成されるのは各画像から射出した光であって、液晶パネル上の画像自体が合成されるのではないから、上記特許請求の範囲記載の「画像」は、第1ないし第3のライトバルブ手段上に生成された3つの画像をいうと解すべきである。したがって、上記特許請求の範囲の記載は、技術的にみて、次のことを意味するものである。

「第1ないし第3のライトバルブ手段上に生成された3つの画像は、合成手段により光学的に合成された状態で、「投写光学手段」により投写される。」

上記はすなわち、「合成手段により光学的に合成された状態の3つの画像を、投写光学手段が投写する」ということであり、結局、「(上記3つの画像は)合成手段により合成された状態(配置状態)を保たれるとともに、(つまり、その光学的合成とともに)(投写光学手段により)投写される」と解することができる。

また、原告が作用効果として主張する「投写光学手段からスクリーンまでの距離や、投写サイズの変更に対しても、単純に投写光学手段の操作のみで焦点を合わせることができ、操作が簡単化される。」との点も、本願明細善の特許請求の範囲には、合成手段及び投写光学手段の具体的な構成は記載されていないから、それぞれが別の機能を果たすからといって、合成手段に影響を与えることなく、投写光学手段を独立に操作して焦点調整を行うことができるということはできない。したがって、原告が主張する上記作用効果についても、本願明細書の特許請求の範囲の記載からこれを明確に読み取ることはできない。

〈2〉 一方、引用例1記載の複数のレンズ62、63、64は、第1ないし第3のライトバルブ手段により生成された3つの画像を光学的に合成する合成手段であるとともに、上記3つの画像は、複数のレンズ62、63、64による光学的な合成とともに、複数のレンズ62、63、64により投写されるから、レンズ62、63、64が合成手段であるとともに、投写光学手段である。

なお、引用例1には「(複数の)鏡または(複数の)プリズムを使用することにより、スリー・ウェイの投射システムが単一のレンズで実現できる。」(2欄52行ないし54行)旨記載されているが、これは、本願明細書の各実施例(第1、3、4図)に示された複数のプリズム30及び単一のレンズ31等を用いる光学系と同様の光学系を意味するものである。したがって、引用例1には実質的に本願発明の実施例として示された光学系と同じ光学系についても記載されているということができる。

〈3〉 したがって、引用例1記載の発明のレンズ62、63、64が合成手段であるとともに投写光学手段であるとした審決に誤りはない。

(2)取消事由2について

原告も認めるように、引用例2の第1図及びその説明には、本願発明の第2の基板に相当するガラス基板1側から光を入射させるという構成が記載されている。したがって、引用例2記載の発明も、特段の事情がない限り、本願発明と同様の作用効果を奏する。そして、引用例2に本願発明の作用効果の記載がなくとも、本願発明と同様の作用効果を奏することは、当業者であれば容易に予想することのできることである。

また、原告は、引用例2の第1図記載の構成は、パネルの光の入射側には偏光板が存在しないから、入射側偏光板により入射光の強度が低下することなくTFTに光が照射されることになり、TFTでの光電流は顕著でありコントラストの低下を押さえることができないと主張する。しかし、引用例2には、「この(第1図の)表示パネルを透過型で用いる場合は、ガラス基板1の下の偏光板を介して・・・下方から光を導入し、」(2頁右上欄1行ないし4行)と記載されており、この配置を採用すれば、本願発明と同様の作用効果が期待できることは当業者に明らかである。

さらに、原告は、引用例2記載の発明は本願発明の作用効果を奏しえないという特段の事情が存在するとし、〈1〉ないし〈4〉を特段の事情として主張する。しかし、原告主張の〈1〉ないし〈4〉のいずれをもってしても、以下のとおり、引用例2記載の発明が本願発明の作用効果を奏しえないものであるということはできない。

〈1〉 原告主張の特段の事情〈1〉については、直視型表示装置と投写型表示装置との間で、その透過型液晶パネルに入射する光の強度に差があるとしても、直視型表示装置について、本願発明と同様の作用効果を奏しえないということはできない。すなわち、投写型表示装置に限らず、直視型表示装置においても、TFTに照射される光強度を下げるべきことは、昭和56年特許出願公開第27114号公報(乙第7号証)記載のとおり、本出願当時既に知られていた技術的課題である。したがって、引用例2記載の発明も、本願発明と同様の作用効果を奏すると解することは、当業者にとって困難なことではない。

〈2〉 原告主張の特段の事情〈2〉ないし〈4〉については、原告の主張は、引用例2記載の発明がゲストホスト型液晶であることを前提にしたものである。しかし、引用例2記載の発明の透過型表示パネルでは、必ずしもゲストホスト型を前提としているわけではなく、「このようなカラー液晶表示体の表示方式としては、液晶のシャッタの開いている時と閉じている時との透過率の比が大きいことが要求される。通常のTN表示体の場合は・・・偏光板に工夫を要する」(5頁左上欄10行ないし19行)等と記載されているとおり、TN型液晶を用いる場合についても記載されているから、原告の主張はその前提を欠く。

また、原告主張の特段の事情〈2〉については、ネガ型のゲストホスト型液晶においても、液晶中に混入される具体的な色素の光吸収率、混入濃度、TFTの大きさにも関係し、TFTに常に光が照射されないとはいえないから、引用例2記載の発明の液晶パネルも、本願発明と同様の作用効果を奏するというべきである。

(3)取消事由3について

原告は、引用例1記載の発明は、投写式表示装置であるのに対し、引用例2記載の発明は、直視型表示装置であって、技術分野が異なっていたとし、前者は後者より強力な光源光を用いる旨主張する。前者よりも後者の方が概して、強力な光源光を用いることが多いかもしれないが、しかし、一般に、液晶セルに用いられる光源光の強度は、液晶セルの具体的構造、使用される液晶体、使用環境等様々な要因によって大きく変わるものであり、投写式表示装置に用いられるか、直視型表示装置に用いられるか、という理由だけで光源光の強度が変わるものではない。むしろ、両者は、透過型液晶装置という共通の技術分野に属しているというべきである。

また、原告は、引用例1記載の発明には、直視型表示装置に引用例2の透過型液晶パネルを組み合わせた場合の問題が記載されていないと主張する。しかし、引用例1記載の発明は、本願発明と同様に、カラーフィルタ53、54、55を用いて白色光から色光を生成しており、がつ、引用例2には、光の入射側に偏光板を配置し、第2の基板側から光を入射するという本願発明と同じ構成が記載されているのであるから、引用例1記載の発明に上記の問題が記載されていないことは、両者の組合せを想到する妨げになるものではない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

第1  請求原因1ないし3(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨、審決の理由の要点)については当事者間に争いがない。

第2  本願発明の概要

成立に争いのない甲第2号証(本願公告公報)によれば、本願明細書に記載された本願発明の技術的課題(目的)、構成、作用効果は次のとおりであることが認められる。

1  技術的課題(目的)

従来、投写式表示装置としては映画やスライド、或いはCRTによるプロジェクションテレビがあった。映画やスライドはフィルム上に焼き付けられた像を投写するものであり、フィルムを媒体として投写するという制約があるため、入力信号に対してオンライン的に画像を見ることができなかった。

一方、CRTによるプロジェクションテレビは、CRT(ブラウン管)そのものが26インチ以上の大画面を構成することが物理的に制約が大きいことから誕生した方式であり、CRTの発射光をそのまま投影するため、CRTの明るさがかなり必要となり、そのため特殊なCRTを大電力で用い、クーリングして用いるという非常に大きなシステムであり、家庭用として使用することは難しいという問題点があった。

また、CRTによるプロジェクションテレビは、光量が不十分で、スクリーン上の明るさが不十分なことと、3管の光をスクリーン上で合成するため、スクリーン位置とシステム位置を微妙に調整してもスクリーン上で色ずれを起こしやすく、全体として非常に画質が低下しており、かなり見にくい画面になるという問題点があった。

さらに、システムが特殊で大型なCRTや、特殊の電源、調整系を備えており、コスト的にかなり高いものになるという問題点があった。

従来の投写式の表示装置には上述の問題点があり、大画面テレビ又は投写式テレゼの利点を生かしきれずに、その普及が遅れている。

本願発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、高画質で、扱いやすく、システムもコンパクトな投写式表示装置を提供することを目的とするものである。(3欄1行ないし31行)

2  構成

本願発明は、その要旨とする特許請求の範囲記載の構成を有する。(3欄32行ないし4欄5行)

3  作用効果

(a)透過型液晶パネルを用いているので、反射型の場合のように偏光ビームスプリッタが不要であり、偏光光学系が簡略化され、システムがコンパクトにまとまる。また、反射型の場合のように非変調光が投写光に混じることがないので、そのような場合のコントラストの劣化がない。

(b)TFTの形成された基板を投写光学手段側に配置したので、TFTに照射される光強度が下げられ、その結果、光に起因する光電流が抑えられ、表示画面のコントラストの低下を抑えることができる。

(c)3パネル投写方式を採用しているので次の利点がある。

〈1〉 色光生成手段により分離された色光(赤、緑、青)が、それぞれライトバルブ手段に入射するので、TFTに照射される光強度を下げることができ、上述の(b)の効果が得られる。さらに、白色光が3原色に分離された後に入射側偏光板に入射しているので、その光強度はおよそ1/3になり、入射側偏光板の温度上昇が抑えられる。このため、透過型液晶パネルの温度上昇も抑えられ、温度変化によるコントラストの低下が抑えられ、また、偏光板の寿命も長くなる。

〈2〉 さらに、同一分解能のパネルならば1パネル方式に比べて分解能が3倍向上する。加えて、人間の目の分解能を利用した併置加法混色ではなく、完全な加法混色なので、投写画像を近くで見ても、拡大率が大きいときも良好な色再現ができる。

〈3〉 画素欠陥が3枚とも同位置に生じる可能性は非常に少ないので、固定画素欠陥を消去できる等の利点がある。

〈4〉 さらに、色光生成手段としてカラーフィルタを用いた場合には、3色が微細配置されたものでなくて、単色のベタフィルムでよい。したがって、3色が微細配置されたカラーフィルタ(1枚のカラーフィルタ)を用いた場合には特定の色光のみが透過し他の色光は透過しないので光量が約1/3になるが、単色のベタフィルタを使用した場合にはそのようなことがないので、カラーフィルタへの光量が同一ならば、本願発明においては1枚のカラーフィルタの場合に比べて、光源の光量を約1/3に下げることができる。

(d)各透過型液晶パネルで生成された画像を色合成手段により合成して投写しているので、投写光学手段からスクリーンまでの距離や、投写サイズの変更に対しても、単純に投写光学手段の操作のみで焦点を合わせることができ、操作が簡単化される。(7欄42行ないし8欄34行)

第3  審決取消事由について

1  取消事由1について判断する。

(1)本願発明の合成手段及び投写光学手段について

〈1〉 本願発明の特許請求の範囲の記載が、「(第1ないし第3の)ライトバルブ手段によりそれぞれ生成された画像を合成する合成手段と、該合成手段により合成された画像を投射する投写光学手段を有(する)」というものであることは前記第2の2認定のとおりである。上記記載によれは、投写光学手段は「合成手段により合成された画像」を投写するものであるから、投写光学手段が投写するためには、それ以前に「合成手段により合成された画像」が存在していなければならないことは、一義的に明確である。したがって、本願発明の技術内容は、合成手段がまず画像を合成し、次いで、その合成された画像を投写光学手段が投写するものと解すべきである。

〈2〉 なお、念のため発明の詳細な説明を検討する。

前掲甲第2号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の作用として、「本発明においては、赤色光、緑色光及び青色光が色光生成手段によりそれぞれ生成され、そして、前記第1のライトバルブ手段、前記第2のライトバルブ手段及び前記第3のライトバルブ手段により各色光に対応した画像がそれぞれ生成される。そして、合成手段によりその画像が合成され、投写光学手段により合成された画像が投写される。」(4欄6行ないし12行)との記載があることが認められる。また、本願発明の作用効果として、「(d)各透過型液晶パネルで生成された画像を色合成手段により合成して投写しているので、投写光学手段からスクリーンまでの距離や、投写サイズの変更(「偏光」は「変更」の誤記と認める。)に対しても、単純に投写光学手段の操作のみで焦点を合わせることができ、操作が簡単化される。」との記載があること前記第2の3認定のとおりである。以上の記載からすれば、本願明細書の発明の詳細な説明においても、本願発明の合成手段と投写光学手段は機能的に分離しており、投写光学手段は、まず合成手段が画像を合成した後に、その合成した画像を投写するものであることが記載されているというべきである。

〈3〉 これに対して被告は、本願特許請求の範囲記載の「画像」は、第1ないし第3のライトバルブ手段上に生成された3つの画像をいうと解すべきであるとした上で、本願特許請求の範囲の記載は、「(上記3つの画像は)合成手段により合成された状態(配置状態)を保たれるとともに、(つまり、その光学的合成とともに)(投写光学手段により)投写される」と解することができると主張する。

しかしながら、本願特許請求の範囲の記載は、ライトバルブ手段上に生成された画像及びそこから射出した光による画像は、「(第1ないし第3の)ライトバルブ手段によりそれぞれ生成された画像」と呼び、投写光学手段が投写する画像は、「合成手段により合成された画像」と呼んで、両者を区別している。そして、本願発明における「合成手段によって合成された画像」は、本願発明の要旨からして、赤色光、緑色光及び青色光による画像を重ね合わせて合成された画像であると解されるところ、このように各色の光による画像を重ね合わせて合成された画像は、合成前の各色の画像とは異なるものと解すべきである。したがって、上記「合成手段によって合成された画像」を、ライトバルブ手段上にある合成前の3つの画像を指すということはできない。

以上のとおり、本願発明において投写光学手段が投写する画像をライトバルブ手段上に生成された3つの画像であると解することはできないから、これを前提とする被告の主張は採用できない。

〈4〉 また、被告は、本願明細書の発明の詳細な説明中に作用効果として、「投写光学手段からスクリーンまでの距離や、投写サイズの変更に対しても、単純に投写光学手段の操作のみで焦点を合わせることができ、操作が簡単化される。」との記載がある点について、合成手段と投写光学手段が別の機能を果たすからといって、合成手段に影響を与えることなく、投写光学手段を独立に操作して焦点調整を行うことができるということはできないと主張する。

しかしながら、上記記載は、「学純に投写光学手段の操作のみ」で焦点を合わせることができるというものであるから、投写光学手段を独立に操作して焦点調整を行うことができるという趣旨と解すべきである。したがって、被告の上記主張も採用できない。

(2)引用例1記載の発明の合成手段と投写光学手段について

〈1〉 成立に争いのない甲第3号証によれば、引用例1には、「(第1ないし第3の)透過型液晶パネルにより生成された画像をそれぞれスクリーン65の同じ位置に投射する複数のレンズ62、63、64とを有する投写システム。」及びその図面(別紙図面2)が記載されていることが認められるところ、上記記載に徴すれば、引用例1記載の発明の複数のレンズ62、63、64は、画像の合成手段であるとともに投写光学手段でもあるものの、画像を投写することによって合成するものであって、まず画像を合成し、次いで、その合成された画像を投写するものではないと認められる。そうすると、引用例1には、本願発明の「合成手段により合成された画像を投写する投写光学手段」は記載されていないといわざるをえない。

〈2〉 なお、被告は、引用例1の「(複数の)鏡または(複数の)プリズムを使用することにより、スリー・ウェイの投射システムが単一のレンズで実現できる」との記載が、本願明細書の各実施例に示された光学系と同様の光学系を意味し、引用例1には実質的に本願発明の実施例として示された光学系と同じ光学系についても記載されていると主張する。

しかしながら、審決において本願発明の進歩性判断のために引用した引用例1記載の技術内容は、光学系として「第1の透過型液晶パネル50、第2の透過型液晶パネル51、第3の透過型液晶パネル52により生成された画像をそれぞれスクリーン65の同じ位置に投射する複数のレンズ62、63、64とを有する投写システム」(審決の理由の要点(2))であって、単一のレンズの投写システムではない。そうすると、引用例1中の単一のレンズの投写システムに関する記載の部分は、本願発明の進歩性判断のために引用されていないことは明らかであって、この記載から把握される技術的思想の創作としての投写システムを本願発明と対比する被告の主張は、審判の手続において審理判断されなかった刊行物の記載に基づくものというべきであるから、本訴において主張することはできない。したがって、被告の主張は採用できない。

(3)以上のとおり、本願発明は、合成手段により合成された画像を投射する投写光学手段を有するのに対し、引用例1には、合成手段により合成された画像を投写する投写光学手段は記載されていない。そして、この構成の相違により、本願発明は、引用例1記載の発明と異なり、投写光学手段からスクリーンまでの距離や、投写サイズの変更に対しても、単純に投写光学手段の操作のみで焦点を合わせることができ、操作が簡単化されるという作用効果を奏すること前記第2の3認定の事実から明らかである。

したがって、本願発明と引用例1記載の発明が、合成手段により合成された画像を投写する投写光学手段を有する点で一致するとした審決の認定は誤りであり、この誤りが、本願発明を引用例1及び引用例2記載の各発明から当業者が容易に発明をすることができたものとした審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

2  以上のとおりであるから、審決は、その余の点について判断するまでもなく、違法として取消しを免れない。

第4  よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 持本健司 裁判官 山田知司)

別紙図面1

(符号の説明)

30……半透過プリズム

33~35、56~58、72~74……液晶パネル

52、53、75、76……半透過ミラー

〈省略〉

別紙図面2

〈省略〉

別紙図面3

〈省略〉

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